「本」というかたちの延命
○PODによる古書復刻
「POD」とは、「プリント・オン・デマンド」の略、つまり注文があったときに必要な分だけを印刷する、という出版方式を意味する。
当プロジェクトは、Amazonの提供するPODサービスを利用して、数多ある古書の中から店主の選定したタイトルを復刻していく試みである。
○日々生まれては消える書籍
一年間に世に出る新刊本の数、約七万タイトル。
古書店は、このように無限に刷られつづける書籍たちの、最後にたどりつくところである。
たとえばとある研究者が、部屋いっぱいの蔵書をのこして他界する。かさばる本を、いつまでも自宅に置いてはおけない。
では図書館などに寄贈すれば引き受けてくれるのかといえば、必ずしもそうではない。本を保存しておくスペースと手間は有限であり、配架できない本はいずれ処分するほかないのだ。気軽にこれらを引き取ろうという施設もなく、古本屋が買い取りに呼ばれる運びとなる。
本を選別し、価値あるものを残すことにかけて、古書店はその専門家である。目録本、店に並ぶ本、あるいは「つぶし」に回す(処分する)しかない本。目録に載るのは仕入れた本の五十冊に一冊、「つぶし」に回す本は当店梁山泊の例では年に一万冊。優先順位もあれば店主の価値観も人により、もちろん古書店まで流れつかずに紙屑となる本もある。
いちどこの世に出た書籍の多くは、このような流れのなかで徐々に散逸していく運命にある。
○デジタルデータの時代
そうして入手困難となっていく無数の本の中にも、資料価値のある本、残るべき中身のある本は当然存在する。ただ、誰もが買えるような形で残っていくものは、否応なくごく一部ということになる。
再版をかけようにも、一度刷れば数百部からの在庫を抱えることになる従来の商業出版では、よほどの「売れる見込み」がある本でなければ印刷費用に見合わなかった。
今はそこに、電子書籍というあらたな形が登場している。容量に上限のないデジタル空間の中で、理論上は、いちど書き著されたすべての言葉が残りつづけることができる。本にとっての画期的な変化といえよう。
ただし、それは本当に今までとおなじ「本」なのだろうか?
本は元来、それ自体がひとつの世界であった。装丁や手触り、時には書き込みをしながら頁をめくる行為そのものに読むということの本質がある。
今後ますます紙からデジタルへの移行が進む時代の流れとはいえ、紙の本に少しでも永らえてほしいと望む声は、数は少なくとも確実に存在している。
○PODと紙の本の未来
古書のPODによる復刻は、こうした状況の中に、古書販売の新たな形をさぐる試みでもある。
紙をスキャンしたデータを保存し、注文を受けて印刷・製本するという手段をとることで、価値ある本を保存するという目的にもかない、実物の本を手元に欲しいという需要にも応えることができる。
既存のシステムを利用したささやかな取り組みではあるが、このプロジェクトが本の世界により良い未来を拓くことを切に願う。
梁山泊出版部
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