店主挨拶

 小店は、かねてより絶版古書に限定して商いをしてきました。そのために、年代の古いものはいいのですが、発行から十数年ぐらいのものについては、絶版かどうかすべて調べます。今のようなネットによる調査なぞない時代には、各出版社の出版目録をとり寄せたり、電話をかけたり往復ハガキを出したり 一冊づつ裏づけをとっていました。その時に知ったのは、時流には乗ってなくてもユニークで中身のある、そして少部数でも後世に残したいような書物を出している小出版社ほど倒産したりして転居先不明になっていたことでした。

 古書の商いで基礎を作って、信用と少しの蓄えができたら、いつか出版を試みてみたいというのは昔からの夢でした。しかし絶版調べで分ったことは、それが如何にリスクの多い事業かということでした。

 そんな夢を封印して、創業以来50年、昨今のITなんたらに違和を感じ、スマホ全盛に嫌悪を覚え、ガラパゴス島で玉砕するつもりでいたところが、その電子技術の進化のおかげか、製作費上のリスクもなく、また在庫負担のない、PODという方式が開発されていることを知りました。そこでは、小店は従来にも増して、稀少な資料の発掘に努めさえすれば、後はその工程に乗せると、装幀こそ原本とは違うものの堅牢で読みやすい復刻版が安価に提供できるということでした。勿論その工程には、小生如きアナログ原人には不可能な、さまざまな技能や手間が必要なのですが、強力な相棒を得て実現にこぎつけました。

 紙に印字された、一枚づつ手で頁を繰る、そういうものとしての本を、小資本でも出せるなら、その限りで電子システムの力を借りるのも悪くはない。それなら発掘した書物を再評価して単品として一人の注文者に提供するのとは別に、それを復刻して、もう少し多くの方に求めやすい価格で頒布するのも古本屋の仕事に出来る筈だ。

 出版の長い歴史のなかで埋もれたままの、先人たちの理想や志のようなものを、ささやかな形ではあれ なんとか受け継いでゆくつもりです。

 昨年に仕上げた8冊を手始めに順次刊行予定です。出版企画の傾向や規準は歴史性や社会性のあるもの、社会・人文科学的批判精神に耐えうるものに絞ります。言わばプリミティブな復刻ですので、解説等は付けてはいませんが、意図するところや意義についてはいつでも言明の用意をしています。まだよちよち歩きの段階ですが、今後の成長を期待して下さい。

2023.1.20

書砦 梁山泊

島元 健作

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